歯周病のこわさを知ってしっかり予防

投稿者: | 2010年5月12日

 歯周病によって溶けてしまった骨は、取り戻すことはできません。歯周病は予防こそがすべてであり、かなめなのです。
 正しいマウスケアをしていれば歯周病になることはないのですが、私のクリニックにも、手がつけられないような重症の歯周病の患者さんが来られます。口はひどく臭うし、歯はグラグラでものがかめない……。こうした状態になってからでは、できる治療も限られてしまいます。
 このような患者さんがもし、歯周病やむし歯の原因になる細菌が、歯や□の中以外にもからだのいろいろなところでさまざまな病気をひき起こす、とてもこわいものだと知ってきちんと歯のケアをしていたなら、歯周病を放置することはなかったでしょう。多くの方に歯周病菌のこわさを知ってもらい、ぜひ歯周病の予防に役立てていただきたいと思います。
◆細菌のつくる毒素(内毒素)が引き起こすこと
 歯周ポケットに住み着く歯周病菌は、きょう膜という外膜でおおわれているというのは前に述べましたが、実はこのきょう膜、それ白身が毒素そのもので、これを内毒素といいます。歯周病のときに骨を溶かすほかにも、ときには命にかかわるような、さまざまな病気の原因になります。
★免疫機能を乱します
 私たちのからだは、常に微生物にさらされ、白血球や免疫が無休でこれらと戦っています。ところが加齢やストレス、体調低下などで免疫がうまく働かなくなったり、糖尿病など白血球の働きが弱くなると、健康なときなら問題にならないような微生物に勝つことができず、発病してしまうことがあります。内毒素は免疫機能を乱し、狂わせる悪質な病原性ももっているのです。
★おなかの赤ちゃんにも影響します
 早産や低休重犯が生まれるリスクの1つとして、細菌感染があります。膣内になんらかの細菌感染があると、子宮や赤ちゃんをとり囲む羊膜に影響がでて、子宮収縮や、子宮頚部に拡張が起こり、早産につながることがあります。
 胎盤でつくられたホルモンはお母さんのからだ中を流れているので、もちろん歯の周囲にも届きます。そのホルモンを栄養にして、突発的に増える細菌がプレボテラ・インターメディアです。
 増強したプレボテラ・インターメディアの内毒素が血管に入り、胎盤や子宮にも届いて影響を与え、早産や低体重見出産の原因となるのです。
 また妊娠中は、ホルモンの影響や、歯磨きがふだんよりゆき届かないことから、歯肉炎が起きやすくなります。
 元気な赤ちゃんを産むためにも、妊娠中は歯の健康に気をつけてカルシウムを積極的にとり、ブラッシングはていねいに。歯肉炎の症状が見られたりむし歯があれば、早めの治療が大切です。
★お年寄りの肺炎の原因にも
 ふつう唾液は寝ている問でも飲み込まれて胃に落ち、胃で殺菌されています。しかし、お年寄りは飲み込みの反応が低下するため、唾液がきちんと胃に入らず、鼻、喉、目の細菌が気管に流れることが多くなります。流れ込んだ細菌を咳などで排出することもお年寄りはうまくいきません。
 気道の粘膜にある細かい毛は気管支や肺に異物が入らないように運動していますが、その働きも年をとると衰えるからです。ですからお年寄りは誤嚥がもとで肺炎が起こりやすく、死因のトップは「肺炎」です。
 ということは、口の中の細菌が防御されずに肺へと向かう確率も高くなります。お年寄りの肺炎を防ぐためにも、口の中の病原菌を少なくすることが大事になります。
★動脈硬化や心臓病にもかかわる
 口の中の細菌は、心臓にまで至って命にかかわる病気を引き起こすことがあります。
 白血球や免疫が血液中に入り込んだ細菌と戦ってくれるのは健康なとき。健康を害したときには戦いきれずに血液中で細菌が増え、敗血症となり、命にかかわることがあります。
 細菌は口の中だけでなく、扁桃腺、呼吸器、腸管などに住み着いています。細菌が心臓の弁膜にへばりついて起こす病気が細菌性心内膜炎です。これは、口の中を住みかにしているサングイス(血液の菌の意味)という連鎖球菌が原因と考えられています。サングイスをはじめ、歯周ポケットにすむその他の菌は、白血球そのものを壊す外毒素を出すので、白血球にやっつけられることもなく生存し、弁膜に着いて心膜炎を起こすことがあります。
 また、動脈硬化のある場所で歯周病菌が発見されました。原因菌にはいろいろありますが、その1つが運動機能をもち、らせん状をしたスピロヘータという歯周病菌です。これは回転しながら歯周ポケットから血管へと移動します。実際に歯周病をもっている人ほど動脈硬化による心臓病が多いことがわかっています。
★歯周病治療で糖尿病が改善するケースも
 血糖値(血液中のブドウ糖の量)を調節するホルモン(インスリン)の分泌が少なくなるのが糖尿病です。からだがだるくなるだけでなく、神経に異常を起こして糖尿病性網膜症や腎臓病などにむすびつきます。糖尿病になるとからだの免疫機能が低下するので歯周病も悪化し、この状態を糖尿病性歯周病といいます。糖尿病の人が歯周病を治療すると、血糖値が下がることがあります。
★歯周病が原因の皮膚炎
 手のひらや足の裏にカサカサと皮がむけたようになって、膿のある発疹がでる掌蹠膿庖症。これにも歯周病菌がかかわることがあります。何と、血液を通って皮膚に住み着いた歯周病菌が、ストレスに順応するためにつくるたんぱく質の仕業だというのです。
★内毒素は骨も溶かす
 歯周病菌が出す内毒素が歯の骨を溶かす病気が歯周病ですが、内毒素は歯の骨だけにとどまらず、からだの骨を溶かす要因にもなっていることがわかってきました。たとえば骨粗しょう症。閉経後の女性やお年寄りに多い、骨密度が低下する病気ですが、これにも歯周病がかかわっています。お年寄りが口の中を徹底してきれいにしたところ、骨が丈夫になり、歩行が改善したという報告も多く出ています
◆歯周病のリスクを知りましょう
 歯周病は、齢をとるとなる病気と考えている方も多いようです。確かに齢をとれば骨がもろくなって免疫力も低下するので、歯周病のリスクは高くなります。しかし、若年者に歯周病が少ないかというと、そうでもないのです。歯周病を数値的に定義すると、「歯周ポケットの深さが4mm以上に達した場合」をさします。25~34歳で約5人に1人、35~44歳で約4人に1人、45~54歳で約3人に1人の人の歯周ポケットが4mm以上だという報告もあります。
 むし歯が細菌感染だけでなくいくつかの要因が重なってできるように、歯周病にも細菌以外に悪化を助長する要因があります。歯を失う最大の原因も歯周病ですが、リスクを遠ざけることが歯周病の予防につながります。
★喫煙
 歯周病患者の約半数が喫煙者であるという報告があります。それも1日の喫煙本数が多い人ほど歯周病の進行が早く、禁煙しても3~5年は喫煙の影響が続いて歯周病のリスクが残るといわれています。
★ストレス
 ストレスはさまざまな病気を招くといわれていますが、それはなぜ? と関かれると、説明しにくいですよね。強いストレスを受けると、交感神経が緊張し、白血球の1つである穎粒球が増えます。この類粒球が死滅するときに生まれる活性酸素が組織を侵し、さまざまな病気を誘引するからです。歯周病とストレスの関係ははっきりとわかってはいませんが、リスクの1つとして関連がありそうです。
★遺伝
 アレルギー体質が遺伝するように、慢性病のかかりやすさは遺伝の影響が大きいことはわかっています。でも、親がアレルギーならば子は必ずアレルギーを起こす
わけではなく、アレルギーのもとになる物質(アレルゲン)にさらされなければ症状は出ません。アレルギー症状は、アレルゲンヘの接触に加えて、体調低下、ストレスなどが加わって出るものです。
 歯周病に関していえば、喫煙やマウスケアの状態の善し悪しに比べれば、遺伝との関連はそれほど強くはありません。しかし、唾液中の物質のなかで歯周病菌が歯の表面に着くのを助ける物質と、免疫物質の量については遺伝的要素が強いことが  わかっていて、じっさい、歯の状態はそれほど悪くはないのに、歯周病が進んでしまう人もいます。
◆歯周病のリスクを調べる検査
 かかりつけの歯科医を定期的に受診していれば、歯周病になる前に歯周病を食い止められますし、たとえなったとしてもすぐに治療を始められるので、さほど問題はないでしょう。もちろんふだんから、歯科で健診を受けて、歯垢をとるなどのケアをしてもらいたいですが、ひどい痛みがなければ歯科へは行かないという方の場合、せめて、ある日、固いものをかじったり歯ブラシを使ったとき血が出たりしたら、すぐに歯科を受診してください。
 歯科では歯周病のリスク検査を行います。まず、歯垢をきれいに取ったあと、細い針のような器具を歯と歯ぐきの間(歯周ポケット)にさし込んで、その深さを計ります(プロービング)。また、歯肉の内側からの出血の有無を確認します。
 次にレントゲン検査を行います。ごく初期の歯周病の場合、目に見える変化はありませんが、そこから経過観察が可能になります。
歯周病検査は、40歳からは5年ごとに行われる生活習慣病健診の1つとして組み込まれていますが、5年に1度ではあまり意味がありません。20~30代で年に1回、40歳を過ぎたら半年に1回は受けることをすすめます。